医学会連合の取組み

わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書

提言・声明

わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書

2025年4月17日、文部科学省 高等教育局長、研究振興局長に要望書を提出しました。

ポスター

↑伊藤学司 高等教育局長へ提出

ポスター

↑塩見みづ枝 研究振興局長へ提出

2025年4月17日

文部科学大臣 あべ 俊子 殿

わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書

 わが国における研究力低下はさまざまなデータにより明らかになり、医学研究においても例外ではない。医学研究は人の生命や疾患の理解、健康の向上や疾患の治療に貢献している。研究力の低下は教育力の低下を通じて医学・医療分野における人材育成の停滞につながり、そのため医学・医療の発展に大きな負の影響を与える。
 このような深刻な状況に鑑み、一般社団法人日本医学会連合は2024年4月より、医学系研究力向上検討ワーキンググループを設置し、議論を進めてきた。ワーキンググループでは各世代にわたる6名の有識者から日本における研究力の低下の現状について具体的データに基づく分析や、文部科学省における検討会、全国医学部長病院長会議における議論などを紹介していただき、検討を重ねてきた。
 また、この1年余りの間にいくつかの学術団体より、わが国の研究力低下に対する危機感を反映した要望書、提言等が関係省庁に提出されてきている。日本医学会連合も2023 年12月21日に厚生労働大臣、文部科学大臣、総務大臣、内閣府特命担当大臣宛てに「専門医等人材育成に関わる要望書」を提出した。2024年2月29日には全国医学部長病院長会議より「研究人材育成に関わる要望」が発出された。前者では専門医取得と研究医育成が両立できる制度の重要性を、後者においては研究マインドをもった人材育成のため、1)学部・大学院教育の充実、2)附属病院の強化と制度改革、3)卒後研修制度の整備を三位一体となって推進することが、研究医(Physician-Scientist)の育成に不可欠であることを強調している。
 さらに、すべての分野の研究者に関わる重要な課題である科学研究費助成事業について、2024 年 9 月に生物科学学会連合、日本医学会連合など多数の学術団体の連名にて国に対して「科学研究費助成事業の全体額増加に関する要望書」を提出した。同年6月には国立大学協会声明 「我が国の輝ける未来のために」が、国立大学の活動を支える基盤経費(運営費交付金)の減額に対する強い危機感の中で表明された。これらは研究力強化、研究人材育成のためには大学、研究機関へのデュアルサポートの充実が重要であることをあらためて訴えたものである。また、これらを受けて、日本経済団体連合会は、2024年12月に科学研究費の倍増、国立大学運営費交付金の拡充の必要性を表明している。
 医学研究は多様化しており、より広い生命科学研究との連携、協働が必須のものとなっている。したがって医学研究力低下の問題は、国内の研究力全般の低下と強く連動しており、科学研究費全体の底上げなどの施策による基盤強化が必要なことは明らかである。一方で厳しさを増している大学病院の経営の中で、先端医療の実践と未来医療の実現のための医学研究の推進という医学研究者に課せられた両責務を果たすことが困難になりつつある現状は危機的であり、有効な改善策とその実現が求められている。

 日本医学会連合は医学系研究力向上検討ワーキンググループの議論を通じて明らかになったいくつかの喫緊に対応すべき課題について、以下の政策の推進を要望する。
 第1に、医学領域では専門医研修制度のもと、医学部出身の大学院入学者の高齢化と減少傾向が進みつつある。研究に従事し始める年齢が高ければ高くなるほど研究医のキャリアパスを描くことは困難になる。特に臨床系では、分野によってやや違いはあるものの、現在、平均的な大学院入学時の年齢が30代前半になっている。専門医制度と並行して、より早期の大学院への入学を促し、研究医を育成しやすくするためのコース、制度設計が求められるとともに、研究医を目指す大学院生の生活を保障する給与の支給などの予算措置が必要である。
 第2に、大学における臨床教室の研究、教育指導の中心を担う助教、講師など若手中堅教員の臨床業務の増大による研究時間確保の難しさと疲弊があげられる。大学病院の教員は、臨床業務以外にも管理業務や教育など、担う業務の多さにより研究時間も大幅に減少し、昨今の働き方改革はそれに拍車をかけている。臨床業務に医療者や事務によるタスクシフト推進が必要なように、研究にも研究補助員の充実など支援制度の整備が必須である。文部科学省2025年度予算にて実施される「医学系研究支援プログラム」のさらなる拡充やClinician Educator Track の構築など教育・研究エフォートを確保できる支援スタッフの充実を要望する。
 第3には、医学分野における海外留学者の減少があげられる。この点は第1の課題で指摘した大学院入学者の高齢化と雇用形態の多様化・不安定化に密接に関連しており、年齢、ポジションの確保の難しさ、および家族関係の中で留学の時期を失っている状況にあると推測される。諸外国でも例があるように大学院生に対して給与を支給するなどの取り組みを通じて、研究医を目指す医師の生活を保障した上で大学院への早期入学を促進するとともに、海外で研究室を主宰する日本人PIとクロスアポイントなどによる連携を深め、短期、中期、長期の海外留学の柔軟な運営と頭脳循環を進める制度設計を新たにつくることを提案したい。日本からの留学者への研究指導に対する熱意と指導体制を評価した上で、引受先の海外PIに対して文部科学省等が教育研究費の助成を行う制度等の検討を要望する。

 日本医学会連合は日本の医学研究を支える研究医を育てるため、若手の基礎医学研究者によるリトリート、社会医学研究者によるリトリートを年に各1回開催している。また、臨床医学から社会医学、基礎医学の学会が参加し、領域横断的な研究課題に取り組む領域横断的連携活動(TEAM)事業などを独自に進めている。そのほか、全国医学部長病院長会議など関連団体とも連携し、研究力向上、研究医育成のための情報共有と議論を行い、改善策を模索してきている。

 省庁におかれましては、医学研究における厳しい日本の現状を踏まえ、本要望書において提案する予算措置を伴った新たな制度設計等の必要性をご理解いただき、早急な対応を切にお願い申し上げる。

一般社団法人日本医学会連合
会長 門脇  孝
副会長 髙橋 雅英
副会長 磯  博康
副会長 南学 正臣
副会長 北川 雄光
理事 岡部 繁男
理事 本間 さと
理事 今中 雄一
理事 苅田 香苗
理事 川上 憲人
理事 青木 茂樹
理事 岡   明
理事 春日 雅人
理事 熊ノ郷 淳
理事 小池 和彦
理事 小室 一成
理事 名越 澄子
理事 池田 徳彦
理事 木村  正
理事 齊藤 光江
理事 澤  芳樹
理事 瀬戸 泰之
理事 松本 守雄
監事 北   潔
監事 秋葉 澄伯
監事 矢冨  裕
監事 森  正樹

医学系研究力向上検討ワーキンググループ
担当副会長 髙橋 雅英
委員 本間 さと
委員 岡部 繁男
委員 宮園 浩平
委員 今井由美子
委員 磯  博康
委員 苅田 香苗
委員 錦織  宏
委員 南学 正臣
委員 熊ノ郷 淳
委員 柳田 素子
委員 北川 雄光
委員 齊藤 光江
委員 木村  正
委員 中澤  徹