シンポジウム「研究力強化と医師偏在の是正に向けたこれまでの取組みと今後について」
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公開期間:2025年12月26日(金曜日)まで
開催概要:
シンポジウム「研究力強化と医師偏在の是正に向けたこれまでの取組みと今後について」
日時:2025年4月30日(水曜日)13時から16時35分まで
会場:一橋講堂 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2
司会:南学 正臣|日本医学会連合副会長
本間 さと |日本医学会連合業務執行理事
プログラム:
■開会の挨拶
門脇 孝 |日本医学会連合 会長
研究力強化と医師偏在の是正に関するアンケート結果について
磯博康 |日本医学会連合副会長
講演概要
2024年11月~12月に臨床に従事している会員を対象に「地域医療の向上と研究力の向上に関する意識調査」を実施し7,545人が回答を得て、35~49歳の若手医師と60歳以上のキャリア医師の間での意識の違いを報告した。その後2025年3月に加盟学会からの追加のアンケート調査を行い104学会からの回答を得て、研究力強化に関する学会の取り組み、地域医療に関する取り組み、先の意識調査結果について、共通の事柄と部会独自の事柄を報告した。日本医学会連合として取り組んでほしいことに関して、国への継続的な提言・働きかけとしては、研究費の増額、充足率の上昇、大学院生の給与保証、専門医機構の制度の改訂(単位に研究も含める等)、学位取得者のインセンテイブの向上(自由標榜の見直し)、研究・医療の支援人材の確保、シーリング制度の見直し、医療コストや医師の専門性・技術性を考慮した診療報酬の見直し、学部の教育方針と内容の見直しが、国民の理解の促進としては、専門医の概要、働き方改革での医師の現状が挙げられた。
地域医療・医師偏在を巡る最近の動向
座長:北川雄光 |日本医学会連合副会長
登壇:迫井正深 |厚生労働省医務技監
講演概要
準備中
研究力向上に向けた取組について
座長:髙橋雅英 |日本医学会連合副会長
登壇:松浦重和 |文部科学省 大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当)
講演概要
医学系研究の強化にあたり、我が国全体の研究力に関する主な課題として、①運営費交付金や科研費の実質的な減少、②技術系職員等の支援人材の少なさ、③若手・中堅人材の減少や研究時間割合の減少、④国際ネットワークへの参画、⑤研究大学群の厚み、⑥研究テーマの国際動向からの遅れ、などがあることを、データを交えて紹介した。
これを踏まえ、第7期科学技術・イノベーション基本計画に向けて文部科学省は、①多様で豊富な「知」を得るエコシステムの強化、②科学技術人材の育成・活躍促進、③我が国
の研究活動の戦略的国際展開、④経済安全保障に係る研究開発等の推進、⑤「知」の価値化 に取り組んでいく。
特に、医学系の研究の支援にあたって、文部科学省は「医学系研究支援プログラム」を開始した。働き方改革を含めた研究環境改善に係る取り組みと一体的に研究費を支援することで、医学系研究力の向上を図っていく。
■それぞれの立場における現状と課題
座長:南学 正臣、齊藤 光江|日本医学会連合業務執行理事、本間 さと
基礎医学)
基礎医学研究におけるEarly exposureの重要性と具体的な取り組み~順天堂大学の例~
洲崎悦生 |順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体システム医科学 主任教授
講演概要
本発表では、学生の早期段階からの研究参加(early exposure)の重要性について議論する。NIHやNSFのプログラムを対象とした比較研究で、early exposureの有効性に関しての因果関係が示唆されている。順天堂大学では、基礎研究医養成プログラム制度を運用し、early exposureの機会創出を図っている。同プログラムでは、M1からの登録制度、M3での本登録、初期研修と並行可能なキャリアパス、専任チューター2名による支援、スター制度などの各種インセンティブを提供している。これにより年間20-40件の学会発表、10件前後の英文原著、複数の筆頭著者論文などの成果を上げ、自立的に研究を行う博士大学院生・ポスドクレベルの能力を持つロールモデル学生を輩出している。各大学の同様のプログラム成果を統合し、我が国の基礎研究医育成システムの発展に貢献する新たなモデル構築を提案する。
キャリアパスから捉えた社会医学人材育成と研究力強化の課題
井上真奈美 |国立がん研究センター がん対策研究所 副所長
講演概要
社会医学人材の多様性/ダイバーシティは年々拡大している一方で、医系人材が増加しているわけではない。これにはいくつかの要因がある。平成16年の医師臨床研修制度の必修化後、医学部学生の大半が、卒後まず臨床研修へと進むため、社会医学領域への参入は、実質、専門医資格の取得を終えた後となる。さらに、社会医学領域に参入を希望する若手医師にとって、専門的知識の取得のために、国内外の公衆衛生に関連する専門職大学院修士課程や博士課程への入学が必須であるが、これも臨床専門医資格取得後になることが多い。そして常勤研究者としての参画は学位取得後とさらに遅くなり、その場合、臨床専門医資格の維持のために必要な臨床勤務が確保できないケースが少なくなく、結果として社会医学常勤研究者としての参入につながらない。したがって、質の高い社会医学人材の確保のためには、社会医学研究者が大学院に進学した時、また留学時、そして常勤研究者となった後にも専門医資格が継続できるようなシステムへ改訂が必要である。
臨床医学)
<中堅世代>
外科医が研究を行う意義とその現実
馬場祥史 |東京大学大学院医学系研究科消化管外科学教授
講演概要
外科医のキャリア形成においては、専門医資格や内視鏡外科技術認定など、臨床技術の習得が重視されており、実践力を高めるための教育や経験の積み重ねに多くの時間と労力が割かれている。一方、学位取得や研究活動は「遠回り」と捉えられることが多く、若手医師の間では研究を敬遠する傾向が強まっている。特に地方では、高度な手術を行うには大学に所属し、研究に従事することが事実上求められる場合もあり、都市部とのキャリア構造の格差が課題として浮き彫りになっている。しかし外科医は、日々の診療において多くの臨床的疑問に直面し、病理や画像、手術所見、社会的背景など、多面的な情報を統合して患者と向き合っており、こうした実臨床に根ざした問いこそが、研究の重要な出発点になり得る。本発表では、自らの経験をもとに、外科医が研究を行う意義と現実、さらに臨床と研究を両立させるために必要と考える支援体制や環境整備の方向性について考察する。
外科系および周産期系臨床の現状と課題-研究力向上への対策-
濟陽寛子|順天堂大学大学院医学研究科 小児外科・小児泌尿生殖器外科 助教
講演概要
近年の外科医を目指す医師が減少している現状より、小児外科領域の背景と日本外科学会の取り組みについて提示する。
新生児を扱う周産期医療から一般外科診療と重複する疾患などを対象とした診療内容の小児外科は、学会会員数が2000名と減少傾向であり充足していると言い難い。背景には少子化の影響が考えられ、医療費政策や地域の医療体制に合った構造改革は偏在の是正に重要と考える。
8つの外科領域の母体となる日本外科学会では、若手外科医の確保と養成の強化を目的として教育委員会のもと2022年にU40WGが発足した。その活動の一つ、専門医取得者を対象にしたアンケート結果からは外科修練の満足度には地域差がなかったが、外科修練プログラムの改善は今後も課題となる。
今後の医師数の減少により研究力や修練に地域差が生じ、地域偏在の促進が懸念される。地域の臨床を維持する効率的な指導体制と組織を超えたサポート体制を整備することが、今後の研究力の向上に重要と考える。
<若手世代>
地方若手臨床医から見た医師偏在の実情と課題~鳥取の現場から~
菓裕貴|鳥取大学医学部附属病院消化器内科助教
講演概要
日本は人口あたりの医師数が先進国と比べて少なく、医師の地域偏在は深刻な課題である。鳥取県は「医師多数県」に分類されるが、診療科・地域・世代間での偏在が顕著であり、実質的な医師不足が生じている。特に2004年に導入された新臨床研修制度の影響で若手医師が都市部に集中し、地方では中堅世代の空洞化が進行した。中でもこの中堅医師の不足は、診療・教育・研究のすべてに影響を及ぼす深刻な課題の一つである。若手医師は過重な業務や指導体制の不足、研究機会の乏しさにより成長の機会が限られており、研究マインドも低下している。今後は中堅医師の定着支援、教育体制の整備、研究文化の醸成が重要である。
働き方改革の時代に未来に挑む若手をどう支えるか
藤川葵|久留米大学特命講師
講演概要
2024年4月、医師の働き方改革関連制度が本格的に施行された。長時間労働は医師の睡眠不足を招くとされており、睡眠不足が医師の健康に及ぼす悪影響を防ぐことの重要性は、最新のエビデンスでも指摘されている。一方で、長時間労働に対する上限規制や健康確保措置が制度として整備されたにもかかわらず、「研鑽」や「宿日直許可」といった制度運用の中では、若手医師の努力が正当に評価されにくい実態もある。働き方改革は単なる労働時間の管理にとどまらず、ハラスメント対策、キャリア支援、子育て支援、地域連携などを含めた、包括的な職場環境の整備と意識改革が求められるものである。高難度手術や先進的な研究など、長期にわたる研鑽が求められる分野においては、これまでの制度設計では十分に対応しきれなかった側面があり、それが志望者の減少に影響した可能性も否定できない。今後は、制度の理念を現場に着実に浸透させるとともに、顕在化した課題に丁寧に向き合い、若手医師が希望を持って挑戦し続けられる環境を整えることが重要である。そのためには、現場の変化を先導できるマネジメント力の高い上司やリーダーの存在が不可欠である。
<シニア世代>
研究力強化と医師偏在の是正
南学正臣|東京大学大学院医学系研究科 研究科長・医学部長/腎臓・内分泌内科学 教授
講演概要
日本の医学研究力の低下は深刻である。大学院では基礎・臨床ともに入学者数が減少し、研究志向の医師が減っている。特に臨床系では、臨床業務の増大と働き方改革よる研究時間確保の難しさと疲弊が重要な要因と考えられている。デジタル化は本来有効な解決策であるが、本邦の医療のデジタル化は大幅に遅れており、WHO の Global Digital Health Monitor においてもアジアの中でも下位に位置している。これを反映してか、現場のアンケートでは「デジタル化には期待できない」という意見が急増しており、医療の世界においても適正にデジタル化を推進することが喫緊の課題となっている。医師偏在については、世界各国で問題になっており、どの国も様々な施策で対応しているものの有効な対策が打ち出せていない。程度の差はあるものの、どの領域も医師不足に悩んでおり、内科領域ではリカレント教育にも力を入れている。国として、適切な数の医師を育成し十分な医師数を確保する必要がある。
外科医の立場から考える、医師偏在と研究力に関する現状と課題
平松昌子|高槻赤十字病院消化器外科医監
講演概要
医師偏在:診療科偏在に関しては、特に外科医の減少が問題となっている。日本外科学会ではこれまでの女性医師リクルートやポジティブ・アクションの取り組みにより女性外科医数は増加傾向にあるものの、その約2/3が乳腺領域に集中するなど領域別格差も課題である。一方で男性外科医の減少は顕著であり、彼らの不満は労働時間の長さや勤務内容ではなく、多くは収入に関するものである。労働内容や能力に見合ったインセンティブ導入などの対策が望まれる。
研究力:大学院・研究室においては、研究資金の増額と研究者に対する安定した収入の確保、技術職へのタスクシフト等は急務である。一般臨床医においても働き方改革に伴う勤務時間制限により、学会出席や論文執筆にかける時間は減少している。臨床研究や症例報告は医療の質に直結するものであり、診療が優先されるが故に研究や教育にかける時間が犠牲になることがないよう、研究時間の確保や資金面のサポート、指導体制を見直す必要がある。
■総合討論
司会:髙橋雅英、磯博康、北川雄光
■閉会の挨拶
磯博康 |日本医学会連合副会長
