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3 ゲノム編集の医学応用(体細胞のゲノム編集)

3.2 遺伝子治療法、ex vivoゲノム編集治療、in vivoゲノム編集治療とは

体内(in vivo)ゲノム編集と体外(ex vivo)ゲノム編集 体内(in vivo)ゲノム編集と体外(ex vivo)ゲノム編集
図8

現在、世界中でゲノム編集技術を用いた治療法の研究が進められています。なぜなら、ゲノム編集技術は、これまで治療が難しかった病気の治療を可能とする革新的な医療技術として注目されているからです。例えば、治療が困難な病気の半数以上は遺伝子変異が原因で起きることが知られています。この遺伝子変異をゲノム編集技術を用いて正常な遺伝子に戻すことにより、病気を治すことができると期待されています。

ゲノム編集技術が登場する以前から、病気の原因となる遺伝子を正常に機能させるための治療法として、外部から正常な遺伝子を導入(補充・付加)する技術がありました(「遺伝子治療」と呼ばれる治療法です)。ただし、この遺伝子治療は、異常な遺伝子が残ったままであり、導入された遺伝子もランダムにゲノムに組み込まれることから他の正常な遺伝子を傷つける恐れがあり、また導入された遺伝子の発現調節もできないなどの限界がありました。一方で、ゲノム編集技術を用いた治療は、従来の遺伝子治療と比較して、異常な遺伝子のみを削除、あるいは、狙ったゲノム上に正常な遺伝子を組み込むことができ、また、遺伝子変異を正確に修復できることなど、従来の遺伝子治療では実現できなかった治療が可能になると期待されています。つまり、従来の遺伝子治療は、特定の遺伝子のみを「組み込む」技術を応用した治療法であるのに対し、ゲノム編集技術を用いた治療法は、特定の遺伝子のみを「編集する」ことにより、病気の原因となる異常な遺伝子を正常にする治療法であるといえます。

ゲノム編集技術を用いた治療法には2種類があり、①患者(患者以外の細胞を用いる場合もあります)の細胞を取り出して、生体外「ex vivo(エックスビボ)」(つまり体の外)で問題となる遺伝子をゲノム編集により改変した後、正常な状態になった細胞を再び体に戻す方法と、②患者の生体内「in vivo(インビボ)」(つまり体の中)でゲノム編集操作を行う方法があります。ex vivoゲノム編集による治療は、生体外に取り出した細胞を用いるため、わが国では「細胞治療」という治療法の枠組みに分類されています。一方で、in vivoゲノム編集による治療は、「遺伝子治療」における治療法の一つに含まれます。また、ex vivoゲノム編集を用いた治療法は、生体外に取り出した細胞を用いるため、正確にゲノム編集された細胞を選別することが可能であることから、in vivoゲノム編集を用いた治療法よりも技術的に安全性が高いというメリットがあります。しかしながら、ex vivoゲノム編集治療の対象となる病気は限定的であるため、疾患組織自体が治療されないと良くならない病気など、病気の種類によっては直接疾患部位を正常にすることが可能なin vivoゲノム編集技術を用いた遺伝子治療が適している場合もあります。

このように、ゲノム編集技術を用いた治療は、これまで治療法がなかった病気の治療が可能になると期待されていますが、安全面ではまだ多くの課題も残されており、今はまだ発展途上の技術でもあります。今後、ゲノム編集技術が多くの病気で安全に使用できるように改良・開発されていくことが望まれます。

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