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2 ゲノム編集とは

2.2ゲノム編集ってなんですか?

ゲノム編集の原理
図2

遺伝情報の本体は細胞核中の2本鎖ゲノムDNAで、A、G、C、Tの4種類の塩基が並んでいます。ゲノムDNAの大切な部分が変異していると、遺伝病やがんなどの疾患の原因になります。そこをもとの正常な塩基配列に戻すことにより、疾患が治ることがあります。このような治療や研究を目的として、体の中のゲノムDNA配列を思うがままに書き換える技術が、ゲノム編集です。

ゲノム編集ではまず、膨大な塩基配列の中から目的のゲノムDNA配列を見つけ出し、そこだけを切断します。このステップが一番重要で、これまでさまざまな工夫がされてきました。現在ではCRISPR (Clustered Regulatory Interspaced Short Palindromic Repeats)-Cas (CRISPR-associated) 9という方法が広く用いられています。切断されたDNAは細胞により傷と認識され、「非相同末端結合」、あるいは「相同組み換え修復」というDNAの傷を治す働きを受けます。非相同末端結合が起きた場合はランダムにDNA配列の欠損や挿入がおこり、遺伝子の機能は壊されます。正常な塩基配列をもつ鋳型DNAを用いた相同組み換え修復が起きた場合は、切断部位の異常塩基配列が正常へと変換されます。つまり、目的のDNA配列を人工的に切断したあとは、細胞まかせです。

CRISPR-Cas9法は、20塩基の標的配列にぴったりと塩基対を作るガイドRNA (CRISPR RNA) が、PAM配列「protospacer adjacent motif, NGG (NはA, G, C, Tのいずれの塩基でもよいことを示す)」の近くにある目的のゲノム部位を見つけ出し、Cas9ヌクレアーゼをそこに連れてきます。つまり、CRISPRがDNAのどの部分を切るかを決め、Cas9ヌクレアーゼが実際に二本鎖を切断します。CRISPR-Cas9の開発は、1987年に当時大阪大学微生物病研究所の石野良純博士(現九州大学教授)による大腸菌内のDNAの繰り返し配列の発見から始まりました。その後古細菌でも見つかり、CRISPRとCasは、細菌がウイルスや外来プラスミドの侵入から自己を守るといった、獲得免疫システムの働きであることがわかってきました。

この細菌学の知見をゲノム編集に応用しようと発想したのが、エマニュエル・シャルパンティエ博士(ドイツ マックス・プランク感染生物学研究所所長)とジェニファー・ダウドナ教授(アメリカ カリフォルニア大学バークレー校)の2名の女性研究者です。2012年に彼女らは、試験管内で配列特異的な切断ができることを示し、その偉業により2020年ノーベル化学賞を受賞しました。この研究をきっかけにヒトゲノム編集への応用が一気に進みました。

CRISPR-Cas9技術の特徴は、簡便で効率がよいところです。従来、狙った遺伝子を切断する技術として、ZFN (Zinc Finger Nuclease)やTALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease) などが開発されていました。これらは、認識させるDNA配列ごとに人工タンパク質をデザインする必要があります。20 塩基ほどの小さなRNAを細胞に導入するだけのCRISPR-Cas9に比べて、技術的な難しさや労力が多いことが問題でした。また、「遺伝子治療」という技術も研究開発されていました。正常な遺伝子を組み込んだDNAを疾患の細胞に導入して補填する、という方法です。この方法では異常な遺伝子は生体内に残ったままで、外から入れたDNAが生体のDNAのどこかに余計に組み込まれることもあります。ゲノム編集は、細胞内の遺伝子そのものを根本的に治すので、効果が大きいと期待されます。

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