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3 ゲノム編集の医学応用(体細胞のゲノム編集)

3.1ヒトの遺伝性疾患

遺伝性疾患とは

遺伝性疾患 遺伝性疾患
図6

遺伝性疾患とは、生殖細胞系列(精子や卵子)の遺伝子の異常によって起きる病気のことを指します。この遺伝子の異常は、偶発的に生じたり、親から遺伝したりすることもあります。病気の原因となる遺伝子の変化は、昔から遺伝子変異(mutation)と表現されてきました。「変異」という言葉は、正常から外れた悪いものというニュアンスを含むため近年はより中立的な「バリアント」という言葉が多く使われるようになっています。遺伝子のバリアントには色々な種類があります。遺伝子の機能を喪失させる機能喪失型変異、機能を逆に高める機能亢進型変異、機能に影響を与えない変異等々。遺伝子の機能が喪失することでも、機能が高まることでも病気が起こり得ます。

遺伝性疾患の数、頻度、種類

現在、4,600あまりの遺伝子が遺伝性疾患の原因であることが知られ、疾患としての総数は7,000を超えています。原因遺伝子の数と疾患の数が合っていないのは、一つの遺伝子の異常で異なるさまざまな疾患の原因となることがあるからです。また、複数の遺伝子の異常が一つの疾患を引き起こすことが知られていることもあります。遺伝性疾患の頻度はさまざまです。単一遺伝子疾患で原因遺伝子が一つの場合は、およそ10,000人に1人以下の頻度で見られ、今まで世界で数例しか報告されていません。単一遺伝子疾患でも、複数の遺伝子が原因となるものでは100〜10,000人に1人程度の頻度で見られます。

遺伝性疾患の多くは、一つの遺伝子に生じた異常が疾患を引き起こす単一遺伝子疾患ですが、単一遺伝子疾患以外の遺伝性疾患もいくつか知られています。

ヒトゲノムには父親由来の遺伝子しか発現しない領域や母親由来の遺伝子しか発現しない領域が常染色体上に存在します。父親、母親、どちらの遺伝子が発現するかはエピジェネティックに調節されています。(ゲノムDNAの配列は変わらないのですが、DNAに化学的な変化が起きてRNAへの転写のされ易さが変化することです。)この現象をゲノムインプリンティングと言います。ゲノムインプリンティングが起きるために健常アリルが存在しても異常なアリルのみが発現もしくは欠失しておきる疾患のことをゲノムインプリンティング疾患といいます。

受精とその後の発生の過程で、精子のミトコンドリアは失われるため、子のミトコンドリアは母親に由来します。ミトコンドリアDNAの異常による遺伝性疾患は母親から遺伝します。

単一遺伝子疾患の遺伝形式

メンデルの法則による遺伝形式
図7

単一遺伝子疾患はメンデルの法則に従って遺伝します。

常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる疾患は、常染色体上の対立遺伝子(アリル)の片方の異常により発症します。もう片方のアリルは健常であることが多く、このような状態をヘテロ接合性に疾患原因バリアントを持つと言います。このようなことが起こるのには、両親のうちどちらかがその疾患原因バリアントを持っていてそれを受け継ぐ場合と、両親にはないバリアントが自然発生するde novo変異の場合とがあります。

常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとる疾患は、常染色体上の両方の対立遺伝子の異常により発症します。患者は全く同じ疾患原因バリアントを両親からそれぞれ遺伝しホモ接合性に疾患原因バリアントを持つ場合と、同じ遺伝子の機能障害を起こす異なるバリアントを両親から遺伝することで発症する複合ヘテロ接合性変異を持つ場合があります。疾患原因バリアントを一つもつ患者の両親や同胞はキャリアと呼ばれます。

X染色体上の遺伝子の異常による単一遺伝子疾患はほとんどが伴性潜性(劣性)遺伝形式をとります。この場合、発症するのは基本的に疾患原因バリアントをヘミ接合性にもつ男性のみで、患者の母親や娘はキャリアになります。伴性顕性(優性)遺伝形式の疾患は少数知られており、基本的には女性にのみ発症します。

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