全身麻酔管理下外科手術における新型コロナウイルス核酸検出の保険収載に関する要望書
全身麻酔管理下外科手術における新型コロナウイルス核酸検出の保険収載に関する要望書
令和2年4月9日
厚生労働大臣
加藤 勝信 殿
一般社団法人日本医学会連合
会 長 門田 守人
一般社団法人日本外科学会
理事長 森 正樹
全身麻酔管理下外科手術における新型コロナウイルス核酸検出の保険収載に関する要望書
最近の新型コロナウイルス感染症の国内での増加に伴い、令和2年4月7日には安倍晋三内閣総理大臣より7都府県に対し緊急事態宣言が発出されるに至りました。本宣言は地域における医療崩壊をくい止めることが第一義の目的であり、無症状者および軽症者においては地方自治体が用意する宿泊施設において経過観察する方策が計画され、医療資源を重症者に集中できるような医療体制が準備されているところであります。
医療崩壊防止のもう一つの側面として、一般の傷病者に対する健全な医療供給が継続されることがきわめて重要です。慢性疾患、がん、外傷など、新型コロナウイルス感染症以外の疾病に苦しむ患者に対しても、安全かつ十分な医療を供給することが医療機関には求められています。
新型コロナウイルス感染症の特徴の一つとして、無症状もしくは軽微な症状の陽性患者が多数存在することは知られています。このように症状が乏しい場合、術前の問診および診察だけで感染者を除外することは難しく、もし不顕性感染患者に全身麻酔下に手術を行えば新型コロナウイルス感染症による重篤な術後合併症を惹起することが予想されます。実際、海外からは腹部一般手術において術後に新型コロナウイルス感染症を発症し3例が術後死亡した事例が報告されております(Ann Surg 誌、2020)。また本邦でも外科手術後に新型コロナウイルス感染症が陽性であったとの報告が散見されるようになってきました。
一方、全身麻酔管理のための気管内挿管や抜管操作はエアロゾルを発生しやすく飛沫(核)感染のリスクが高まる処置です。さらに新型コロナウイルスは血液や肝臓・消化管などの呼吸器以外にも存在することが証明されており、これらの電気メス処置において容易にエアロゾルを発生し飛沫(核)感染のリスクとなり、医療従事者への2次感染につながります。もし、手術を端緒とする新型コロナウイルス院内感染がひとたび発症すれば病院機能は停止し、地域医療崩壊の引き金となります。
現在、新型コロナウイルス感染症蔓延の状況下にあっても医療崩壊を防ぐべく多くの外科手術が行われています。疾病の重症度・緊急性と医療資源(医療従事者、病床、個人防護具)の充足度、そして該当地域における新型コロナウイルス感染症蔓延のバランスを見極めたうえで、医療機関ごとにどの外科手術を行うべきか判断(外科手術トリアージ)して実施しております。しかし医学的に最も重要な新型コロナウイルス感染の有無の判定を行うには至っておりません。現在、唯一の確定診断法である新型コロナウイルス核酸検査は外科手術待機患者のスクリーニング検査としては認められておらず、問診や診察などにより対応しているのが現状です。本検査を全身麻酔または局所麻酔管理下外科手術症例に適応拡大することにより、①手術後の新型コロナウイルス感染症発症による術後合併症発生のリスクの低減、②医療従事者(麻酔医、外科医、手術室看護師、同看護助手)の新型コロナウイルス飛沫(核)感染のリスクの低減、③すべての手術患者が新型コロナウイルス陽性もしくは疑いとみなした場合の過度の感染予防対策による不必要な医療資源(個人防護具など)の使用低減、④院内感染および帰宅後の地域感染予防、などの効果が期待されます。
新型コロナウイルス核酸検出法については令和2年3月6日に「新型コロナウイルス感染症の患者であることが疑われる者に対し COVID-19 の診断を目的として行った場合又はCOVID-19 の治療を目的として入院している者に対し退院可能かどうかの判断を目的として実施した場合に保険適用とする」旨、保医発 0304 第5号にて通達されております。しかし、上述しましたように無症状もしくは軽微な症状である者に対して全身麻酔または局所麻酔管理下に外科手術を行う場合、新型コロナウイルス検出検査を行うことの必要性は極めて高く、患者の安全性確保と医療従事者の感染予防のため是非「新型コロナウイルス核酸検出法の全身麻酔または局所麻酔管理下外科手術を受ける者」に対する保険適用拡大を要望するものであります。
昨今の新型コロナウイルス感染症よる医療崩壊をくい止めるため、本要望に早急に対応していただくよう、切にお願い申し上げます。

