日本医学会連合だより第2号を掲載しました。
日本医学会連合だより 第2号(2019年1月16日発行)
会長挨拶
会長 門田 守人
新年明けましておめでとうございます。この場をお借りして、ひとこと年頭のご挨拶を申し上げます。
2017年6月に日本医学会連合の会長に就任して2年目の新年を迎えました。新執行部では、企画運営会議を月2回、理事会を2ヶ月に1回のペースで開催し、新しい委員会も新設、積極的に課題解決に取り組んできました。その活動には、研究推進委員会による「研究フォーラム」事業や「ゲノム編集」に関する検討、労働環境委員会による「勤務医の働き方改革」に関する検討、そして、「加熱式たばこと健康」に関する公開シンポジウムなどを上げることができます。また、広報委員会によりウェブサイトの立ち上げやこの「連合だより」をはじめとする情報発信も進んでいます。日本医学会連合のロゴが制定されたことも特筆すべきことと思います。また、日本医師会の下にある日本医学会の主たる業務である日本医学会総会の開催や公開フォーラム、医学用語、医学倫理などの諸活動を、日本医師会と密接に協力して行ってきました。この機会に、日頃、ご助力・ご指導をいただいている加盟団体の各位、ならびにご尽力をいただいた関係各位に改めて御礼申し上げます。
日本医学会連合の使命は、定款に定められているように「当法人は、医学に関する科学及び技術の研究促進を図り、医学研究者の倫理行動規範を守り、わが国の医学及び医療の水準の向上に寄与する」ことです。しかし、文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による報告によれば、平成の後半の15年間、振興著しい中国・米国、韓国に比べ、わが国の研究力が上げ止まり、世界全体の論文の数が拡大しているのに対し、わが国の増加は少なく、論文数シェアが大きく下がっています。また、医学のみならず基礎科学における研究力が低下していることへの懸念が多数の有識者から表明されています。その原因として、国立大学の運営費交付金、研究費の配分、若手研究員など研究環境の悪化が問題視されています。昨年には、本庶佑京都大学・特別教授のノーベル医学・生理学賞の受賞という、わが国の医学研究の推進のために、大変喜ばしい出来事がありましたが、これまでの日本の研究者が得たノーベル賞級の成果は、20-30年前の発見によるものです。基礎学問への投資が学術の新たな展開をもたらすには、人材、時間、働く環境などでのゆとりが必要です。今後わが国全体の科学を牽引し、科学立国日本を堅持するためにも、我々は基礎医学の発展のために、喫緊の課題としてこの問題に取り組む必要があると考えます。
日本医学会連合の定款にある医学倫理に関しては、看過できない出来事がありました。剽窃・ねつ造・改ざん等による医学論文の出版を巡る問題、医学部入試における女子・多浪学生らに対する不正行為などです。昨年のScience誌には、わが国の医学研究者の多くが関わった論文取り下げに関する不名誉な記事もありました。上述のように、我々は定款に「医学研究者の倫理行動規範を守り、わが国の医学及び医療の水準の向上に寄与する」と謳っており、加盟団体におかれても、それぞれ組織的な対応をお願いしたいと思います。
また、昨年の11月、ゲノム編集ベイビーの誕生の報告がありました。その真偽は明らかではありませんが、もし真実とするならば、今の時点ではあってはならない極めて重大なことと言わざるを得ません。700万年とも言われる人類の歴史を初めて塗り替えることに繋がることで、実行に先だって地球規模での議論を尽くす必要があると考えます。我々は、一昨年7月「わが国の医学研究者倫理に関する提言」を発出し、毎年「研究倫理教育研修会」を開催し、職業倫理規程の制定や倫理意識の普及に努めているところであります。ご協力宜しくお願いいたします。
2019年の春には、「第30回日本医学会総会2019中部」が名古屋で開催されます。学術集会は4月27日~29日となっております。多くの皆様のご参加をお待ちしております。
日本医学会連合がその使命達成のために行う活動は多岐にわたります。その際に、われわれは、学術を基盤とした団体であることを忘れず、わが国の医学と医療に貢献するために、どのような課題に、どのような角度から臨むかを深く考えなければなりません。
皆様と共に平成の結び、また次の世への幕開けを歩みたいと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。
【参考】
- 村上 昭義、伊神 正貫 「科学研究のベンチマーキング 2017」,NISTEP RESEARCH MATERIAL, No.262,文部科学省科学技術・学術政策研究所.
DOI: http://doi.org/10.15108/rm262 - 文部科学省 科学技術・学術政策研究所「日本の科学研究力の現状と課題」, NISTEPブックレット-1(ver.5) .
DOI: http://doi.org/10.15108/nb1.ver5
医師の働き方改革に関するフォーラムの報告
2018年12月1日に東京都内で「『医療の質・安全の確保』と『医師の健康への配慮』―その両立をめざして」を開催し、会員の47学会からの代表者など70名以上が参加しました。この会合では、本連合の勤務医の労働環境検討委員会で取りまとめた提言の素案と作成の経緯が説明され、各学会、関係者を含めて討議が行われました。
当日提案された提言(案)の内容は諸外国の政策を含めた動向、他医療系団体での同種の提言の評価、最近の健康障害に関する疫学的知見を踏まえたものであり、骨子は以下の8項目です。当日の討議では、提言3(勤務医の健康確保と医療の質・安全)に関連して、日夜、過重労働から健康障害を起こす危険にさらされている医師の立場を理解するのが若手医師の帰属するそれぞれの学会および日本医学会連合への期待ではないのか?等、多くの意見が交わされました。
委員会では各学会、当日の意見を受け、今月にも最終的な提言を取りまとめ、公表する予定です。(以下は12月1日の提案内容)
- 提言1 業務負担の軽減策(フィジシャンアシスタント導入、交代制、集約化など医療提供体制の早急な見直し)
- 提言2 医療機関に対する財政支援
- 提言3 「医療の質・安全の向上」と「勤務医の健康への配慮」の両立
- 提言4 時間外労働削減等の時間管理
- 提言5 職場トップのリーダーシップによるマネジメント、健康支援
- 提言6 医師不足、地域偏在、診療科偏在など医師養成、医療制度等の課題
- 提言7 女性医師等のキャリア形成・実力養成への支援
- 提言8 社会や患者の理解促進(適切な受診行動など医療の現状への理解)
加盟学会連携フォーラム共催事業を利用してください
連合では、加盟学会連携フォーラム共催事業として、分野横断的な連携・交流を深めるために加盟学会によるフォーラムに対して開催費用30万円を補助しています。本事業の詳細、申請方法については連合のホームページを参照してください。
https://www.jmsf.or.jp/forum_kyosai.html
広報委員長より
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。日本医学会連合だよりは平成の締めくくりの年頭に第2号の発刊となりました。
連合では、昨年3月に「『望まない受動喫煙』対策(健康増進法改正原案)に対する緊急声明」、9月に「医学部入試における機会平等と医学系分野での女性の活躍推進について」を公表いたしました。前者は社会的に大きな話題となった受動喫煙対策のあり方に対する医学を礎とした提言、後者は会長の挨拶にもあるように多様で優秀な人材の参入を促進するために医学部入学という入口での差別を容認しないことの表明です。いずれも本連合の学術団体としての姿勢を示せたものと思います。
昨年は本連合の意見を発信するメディアとして、ホームページのリニューアル、日本医学会連合だよりの発刊も行いました。徐々に本連合の存在も認知されており、発信の基盤も整ってきましたので、広報委員会では更に活発な活動を展開します。今年は本号でもご案内した加盟学会による連携フォーラムの内容も取り上げる予定です。皆様からも日本医学会連合だよりで取り上げるべき内容をお知らせください。