医学会連合の取組み

医薬品安定供給に関する提言

提言・声明

医薬品安定供給に関する提言

2024年6月12日、厚生労働省 浅沼一成 医政局長、内山博之 医薬産業振興・医療情報審議官に提出しました。

2024年6月12日

厚生労働省医政局長 浅沼 一成 殿 

医薬品安定供給に関する提言
~日本医学会連合 医薬品の安定供給に関するアンケート結果より~

一般社団法人日本医学会連合
会長 門脇  孝

 近年、医薬品製造過程におけるトラブル、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行等による需要の急激な変化など、さまざまな要因により、多数の医薬品の供給が不安定化している。この現状を受け、厚生労働省が関係者会議を開催するなど、関係者が多岐にわたる対策を講じている。その一方で、一般社団法人日本医学会連合では、広い学問的・臨床的視座からの意見を集めて課題の解決策を探ることが必要と考え、2024年1月に「医薬品の安定供給に向けた検討ワーキンググループ」を立ち上げた。加盟学会に対して「医薬品の安定供給に関するアンケート」を2024年1月から2月にかけて行った。このアンケート結果を踏まえた提言を以下に示す。

1.臨床において質の高い医療を維持するための患者や医療者ニーズへの対応
 アンケート結果に基づくと、医薬品の供給不安定は、日常診療で多く使われる鎮咳薬、解熱鎮痛薬などから、代替の効かない注射薬まで、幅広く生じていた。これまで安定供給の議論では、供給不安の根本的な解決が難しいことを前提に、医薬品の製造や流通に関する局面において、その影響を減ずるための対応策が検討されてきた。この点についてアンケート結果では、必要に応じて備蓄ないしは国産化を組み合わせた対策を一層講じるのが望ましいなどの意見があった。
 供給不安の影響は、製造・流通のみならず、当然ながら臨床現場にも及んでいる。アンケート結果では、医薬品の供給不安定による患者の反応として、不安(とても当てはまる:31.9%、やや当てはまる:42.2%)や戸惑い(とても当てはまる:29.0%、やや当てはまる:39.9%)が多く生じていると判明した。実際の臨床の場面では、医師の側で代替薬に切り替えるなどの工夫により、患者側への影響を最小限にしようにする努力が見られた。
 供給不安に対する政策を検討する際には、水際で対応を迫られる医療者や、不安や戸惑いを抱く患者の意見を聴取し、ニーズを汲み取ることが重要である。

2.「安定確保医薬品」リストの定期的な見直しとその周知、政策への反映
 「安定確保医薬品」とは、日本医学会傘下の主たる学会の各専門領域において、医療上必要不可欠であって、汎用され、安定確保が求められる医薬品として提案されたもので、我が国の健康に関する安全保障上、国民の生命を守るため、切れ目のない医療供給のために必要で、安定確保について特に配慮が必要とされる医薬品を言う1。2020年に厚生労働省が日本医学会に要請して案を作成し、2021年に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」にて506成分が了承された。優先度によって3カテゴリーに分類されている。実際に、2022年度薬価改定では「安定確保医薬品」のうち8成分が「基礎的医薬品」として指定され、安定確保に向けた薬価下支えの方策が取られている。
 本アンケート調査の結果でも、他の調査でも課題として挙げられている抗生物質に加え、メトトレキサート(カテゴリーA)やウロキナーゼ(カテゴリーB)などの重要薬剤の供給不安が現場に影響を与えていることが判明している。
 一方で、安定確保するべき医薬品の種類は年を追うごとに変化することが考えられるものの、3年前から変更が行われておらず、多くの医療系学会の幹部が「このリストを知らない」という本アンケート結果が出ている。
 「安定確保医薬品」について、厚生労働省と日本医学会連合が協働して、定期的なリストの見直しの仕組みを導入した上で、関係者に向けて周知し、薬価を含めた政策に反映するべきである。

3.医薬品安定供給に関する議論へ日本医学会連合の立場としての参加
 本アンケートでは、「医学会連合として行うことのできる活動、アプローチ」として「政策提言」が多く挙げられた。しかしながら、これまでの「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」などの厚生労働省の会議において、日本医学会連合を代表する委員はこれまで招集されてこなかった。
 日本医学会連合は医学および医療における研究・教育の推進と実践を行う医学系学術団体のアンブレラ組織であり、学術的視座から全体最適を目指した発言を行うべき立場にある。また、「安定確保医薬品」の迅速かつ適正な見直しのためには、専門的治療の発展と普及を担う医学系学術団体の協力が不可欠である。
 多様なステークホルダーの意見を求める仕組みの一環として、これらの会議体の構成員ないし参考人として招集し、発言の機会が与えられることを要望する。

_________
1厚生労働省「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 取りまとめ」2020年9月,
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000676422.pdf(最終アクセス 2024 年 5 月 3 日)