医学会連合の取組み

「望まない受動喫煙」対策(健康増進法改正原案)に対する緊急声明

提言・声明

「望まない受動喫煙」対策(健康増進法改正原案)に対する緊急声明

2018年 3月 2日

「望まない受動喫煙」対策(健康増進法改正原案)に対する緊急声明

一般社団法人日本医学会連合会長
 門田 守人    

  2018年1月30日、厚生労働省は「望まない受動喫煙」の対策を促進するため、健康増進法改正原案を公表し、3月に改正案の国会での審議が開始されるとの報道がなされています。一般社団法人日本医学会連合(以下、日本医学会連合と略す)は、生命の仕組みを解明し、疾病予防や治療法の開発を推進し、国民の健康を守り健全な社会づくりを目指す学術団体で、基礎医学・臨床医学・社会医学の128学会で構成されていますが、この改正原案では、国民の健康を増進し命を守るうえで看過できない状況が続くことを憂慮しています。
 喫煙は予防可能な最大の死因です。喫煙者本人のみならず、受動喫煙によって非喫煙者も、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群等の致命的な疾患に罹患することが科学的に証明されています。受動喫煙による死亡者数は、世界保健機関(WHO)の2010年報告によれば、全世界で603,000人、内こども165,000人(1)、日本でも、国立がん研究センターによれば、受動喫煙による死亡者数は年間15,000人(2)、肺がんリスクは受動喫煙を受けない者の1.3倍(3)となることが推計されています。わが国も批准したWHOのたばこ規制枠組条約(FCTC)は、すべての人をたばこの煙から守る政策として受動喫煙対策を積極的に履行することを求めており、現在55か国が屋内完全禁煙の法制度を有しています(4)。しかし、我が国の健康増進法では、受動喫煙防止は努力義務に過ぎないため、職場や飲食店等での喫煙環境が改善されず、そこで働く従業員の健康が犠牲になる状況が続いてきました(5)
 一方、WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は、健康を象徴する祭典でもある五輪・パラリンピック大会をタバコフリー(たばこ産業のスポンサーシップの排除、環境の禁煙化)で行うことを開催国に求めてきました。開催地の禁煙化は、2004年のアテネ大会以来、すべての開催国や開催都市で法律や条例などによって実現しています。しかし日本では、2020年東京大会の開催までの屋内完全禁煙の実現が危ぶまれる状況です。
 その理由として、改正原案では店舗面積により分煙を認めるなど禁煙対策の除外規定があり、禁煙対策の抜け穴が作られていること、また「望まない受動喫煙」を対象としているため、受動喫煙を望んでいないことを言い出しにくい立場の人々に、事実上、受動喫煙を強いる可能性が高いことなどが挙げられます。不特定多数の人が集まる場所での受動喫煙をゼロにするため、屋内完全禁煙を基本とした実効性のある法的措置を、日本医学会連合(6)は、他の医学・医療諸団体(7−9)とともに求めてきました。引き続き、屋内施設の完全禁煙化を求めます。
 なお改正原案においては、日本を筆頭に普及が急速に進む加熱式たばこに関して、「現在の科学的知見(10)から加熱式たばこの受動喫煙による健康影響を予測することは困難であり、今後の研究や調査の継続が必要」と結論づけられています。他方、この1月に米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は、たばこメーカーによる加熱式たばこの申請承認に対する判断を見送りました。有害化学物質の発生量の低下は測定した物質に限り認めることができるが、たばこメーカーが主張するようなリスク低減に関しては現時点では肯定できないという理由からです。本来であれば、わが国においても販売認可前に健康影響に関する調査・研究結果の提出をメーカーに求めるとともに、認可する側も同様に調査・研究を十分に行っておくべきであったといえましょう。国民の健康増進と命を守るためには、医薬品や化学物質など新たな製品を市場に出す前に、安全性・危険性についての国民的合意が得られるよう予防的な取組みを行うことが公衆衛生の原則に叶っているからです。
 以上をまとめますと、健康増進法の改正に際しては、国民の健康増進と命を守るうえで重要な公衆衛生の原則に則り、健康被害が実証されている紙巻たばこによる屋内施設での完全禁煙化を図ること、加えて加熱式たばこによる二次曝露(受動喫煙)対策も紙巻たばこと同様の規制を行うことを、日本医学会連合は強く要請します。それらにより日本国民の健康とともにオリンピックで来日される世界の人々の健康を守ることができます。

参考情報:

1.世界保健機関、 <http://www.who.int/quantifying_ehimpacts/publications/shsarticle2010/en/ >、2018 年 2月14日アクセス。

2.厚生労働科学研究費補助金「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」、
 平成27年度報告書(研究代表者、片野田耕太)<https://mhlwgrants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201508017A>
 、2018 年 2 月 14日アクセス

3.国立がん研究センター、
 <https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0928/index.html>、2018 年 2 月 14日アクセス

4.Framework Convention Alliance、タバコ規制枠組み条約国内実行ガイド(翻訳:日本禁煙学会)、 <http://www.nosmoke55.jp/data/0605fctcguide.pdf>、2018 年 2 月 14 日アクセス

5.大和 浩, 姜 英、太田雅規、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」第8条「たばこの煙にさらされることからの保護」について日本衛  生学雑誌70 (1): 3-14,2015

6.一般社団法人日本医学会連合 受動喫煙防止対策に関する意見書 2017年3月22日http://www.jmsf.or.jp/files/info002-01.pdf

7.がん対策推進協議会意見書、「受動喫煙防止対策に関する意見書」、2017年2月23 日

8.禁煙推進学術ネットワーク、日本医師会、日本医学会、日本歯科医師会、日本歯学会の要望書、「2020年の東京オリンピック・パラリンピッ  ク競技大会の成功に向けて屋内完全禁煙とする包括的受動喫煙防止法・条例制定の要望書」、2016年12月7日

9.禁煙推進学術ネットワーク声明、「健康被害の防止が期待できない観点から、受動喫煙の規制に面積基準による小規模店舗の例外を認めるこ  とや喫煙室の設置等の分煙は認めるべきではない」、(2017年2月24日)

10.厚生労働省ホームページ、<http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html>、2018年2月14日アクセス。