活動報告

健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言を掲載しました。

  • 健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言


    要旨

    日本医学会連合の健康・医療分野におけるビッグデータに関する委員会において、健康・医療分野におけるビッグデータの生成や活用のあるべき姿に力点をおくことにより、その抜本的な改善を促すための議論を行った。その結果として、日本の健康・医療分野におけるデータ活用環境を健全なものとし、すでに日本が突入した人口減少に向かう超少子高齢社会時代に質の高い医療を効率良く提供し、また健康・医療DX時代における国際競争に日本が勝ち抜く基盤を構築することを目的として、本提言を取り纏めた。
    まず、日本の健康・医療分野のビッグデータの種類、海外のデータ活用事例、日本におけるデータ整備や活動の努力、課題と対処の現状を総括した。それらを踏まえた提言を以下に示す。

    提言

    1) 平時にも有事にも機能する個人を中心とした健康・医療情報インフラの早期実現  【提言先:内閣府】
    平時にも有事にも機能する健康・医療情報インフラとして、政府が2030年度までに構築を進める全国医療情報プラットフォーム(以下、PF)基盤上でデータを活用する標準的なPersonal Health Record の整備と普及が期待される。なお、想定すべき有事とはパンデミックに留まらず地震などの自然災害、火災、戦争、個人に生じる急病・外傷等あらゆるものを含む。平時に利用するシステムに関しては、有事に活用できるインフラの利用を想定して構築し、定期的に有事に備えた訓練等も行い、平時にも有事にもスムーズな利用が可能な情報基盤となるよう提言する。

    2) 電子カルテ機能の抜本的見直しと標準化 【提言先:厚生労働省、経済産業省】
    現在の電子カルテの傷病名は精度に課題があり、またカルテ記録も疾患および診療科の特殊性に対応していない。日本医学会連合が中心となり、各臨床学会と連携し、診断領域の主要な疾患等のデータ項目セット等を策定してその運用方法等の策定を定め推進・支援してゆく所存である。同時に、医療従事者の働き方改革に順行するICT環境等の整備も必要である。医療施設における標準コード等の運用は、厚生労働省が主導しその支援や認証のための第三者機関を定め、体制が整備された施設に対してインセンティブを付与する等の対応をすることを提言する。

    3) 個人情報に関する健康・医療分野個別法「健康・医療情報利活用法」の制定  【提言先:個人情報保護委員会、法務省、文部科学省、厚生労働省】
    データの2次利用に関する個別法である次世代医療基盤法は制定されたが、全面的に健康・医療データの運用を網羅する、個人情報保護と活用の方針を明確に示した個人情報保護の個別法としての「健康・医療情報利活用法」の制定等を提言する。その法律を施行するにあたり、マイナンバーに対して一意に連携できる医療分野IDの創設や信頼できるデータ管理機関の設置、e-ConsentとりわけDynamic Consentの適正な普及推進等を行うこと、個人の同意に拠らない倫理に関する新たなガバナンスモデルの構築、専門的なELSI研究および情報モラル教育を推進することを提言する。

    4) データ利活用促進のための人材育成 【提言先:文部科学省、厚生労働省】
    健康・医療分野のビッグデータの利活用のため、データサイエンスを直接支える高度な知識とスキルを持つデータサイエンティストのみならず、データサイエンティストに質の高いデータを抽出し提供することができる予防医療や臨床・医療ICT等の実務に関する専門性を持ちデータの成形や品質管理に関わる人材など、多様な関連領域の早急かつ継続的な人材育成を推進することを提言する。